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2012-01-29

IKTTで使われている染め材~ラック


(左:木の枝に付着したラックの巣〔スチックラック〕、右:括りを終えた緯糸をラックで染める)
【名称】
日本語:ラック(ラックカイガラムシ)
英語:Lac insect
カンボジア語:リアック・クメール
ラテン語名 [Laccifer lacca (Kerr.)]
【使用部位】
巣(nest)
【染色結果】
明礬媒染で赤、鉄媒染で紫。
【染色方法】
・ラックカイガラムシの巣を細かく刻むように砕き、さらに石臼ですりつぶしたものを水に浸して色素を抽出する。色素を抽出するには、煮出す方法もあるがIKTTでは煮出さずに常温で抽出する。
・タマリンドの実や葉を入れることで、ある種の酸を利用して発色と色素の定着を促す。地方によっては、タマリンドの代わりに蟻塚のかたまりを入れ、蟻酸を利用する方法もあるという。

(ラックの巣を細かく砕き、すりつぶす作業)
photo=(c)Rolex Awards/Xavier Lecoultre

【メモ】
・IKTTで使用する自然染料のなかでは、唯一、植物由来ではない染料である。
・カンボジア語の「リアック・クメール」は、染料一般をも指すため、ときに化学染料を意味することもある。そのため、1995年に行なったユネスコの調査の際に、聞き取り調査のなかで「自然染料と化学染料のどちらを指すのかわからず苦労したことがある」と森本さんは記す。⇒『カンボジア絹絣の世界』p.35
・産地は、ブータン、ネパール、インドのウッタルプラデッシュ州やアッサム州、インドネシア、中国・雲南省、ビルマ、タイ北部、ラオス、カンボジアなど。ラックカイガラムシには繁殖期に新しい枝に移動する習性があり、ラックカイガラムシが移動した後の枝(についた巣)を回収する(枝から回収した状態のものをスチックラックという)。この習性を利用して、村人たちはラックカイガラムシを飼育していた。
・おもに、アメリカネムノキ(別名レインツリー)、セイロンオーク、ハナモツヤクノキ、インドナツメなどに寄生する。
・カンボジアでは、ダムトラン、ダムチュノールと呼ばれる木で飼育されていたという。⇒『カンボジア絹絣の世界』p.35
・ラックは、食品着色料(天然着色料)としても使用される。カマボコの赤い部分、カキ氷などのイチゴミルクの赤、アンパンの餡(あん)の色など。食品の表示ラベルに「ラック色素(ラッカイン酸)」とあることでわかる。⇒渡辺弘之『カイガラムシが熱帯林を救う』p.2-14。
・スチックラックを粉砕しゴミを取り除き、これを熱、アルコール、アルカリなどで加工処理したものをシェラックという。シェラックは、耐酸性・耐油性が強く、その一方でアルコールには容易に溶けるという特性がある。そのため、古くからアルコールに溶かしニスとして使用されてきた。塗料の「ラッカー」は、このラックの名に由来する。⇒渡辺弘之『東南アジア林産物20の謎』p.58-59
・周達観『真臘風土記』の「出産(産物)」の項には、「紫梗(しこう)」の記述がある。
・正倉院北倉には、「紫鉱」の名で、スチックラックが保管されている。
・インドのビハール州には、ラック研究所がある。
・インド北東部、アルナーチャル・プラデーシュ州(アッサム州の北、ブータンの東に位置する)のモンパ族はエリシルクをラックで染めたものを日常的に着ているという。このラックは東ブータンやメガラヤから運ばれてくるという。[岩立広子『インド 大地の布』p.64-67]
・以下は、2004年3月に岩立が観察したラックの染色法。「(ラックを)木の臼に入れて、杵でつく。細かく砕かれたラックを布に包み、熱湯を注いでから絞り出す。同じ工程を20回ほど、2時間の力仕事を繰り返し、染め液を作る。染め液に糸をつけて1時間くらい煮ると赤く染まる」
・ブータンでは、おもにマメ科のブテア(ブータン名は“ツォシン”)と、クロウメモドキ科のナツメ(ブータン名は“カンカルシン”)の2種の樹木がラックの飼育に用いられる。冬の間ナツメの枝で繁殖したラックは、枝ごと収穫されスチックラックとなる。そして5~6月に、このスチックラックをブテアの枝にぶら下げ、ラックカイガラムシを移植させる。10~11月にはブテアの枝を収穫してスチックラックとし、その一部を再びナツメの枝にぶら下げる。こうして、年に2回の収穫を行なう、とある。ラックから得られた染料は“ジャッオ”と呼ばれ、その抽出法は次のとおり。「(ラック)カイガラムシを砕き、熱湯で滲出すると赤い液になり、それを煮詰めてつくる」。「ブラ絹(=現地で“ボラン”とか“ブラ”と呼ばれる、ヒマの葉などを食べる野蚕からとれる絹)などを染色するには“ヒン”という植物の葉の媒染剤をラック染色の前と後の2回使用する。ヒンは3種類あって、ラモシッシマ=ハイノキおよびハイノキ属の未同定種が使用されている」「ブータンのラマ僧の赤い衣はたいていラック染めである」。[中尾佐助・西岡京治『ブータンの花 [新版]』p.138]

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1 件のコメント:

  1. インドならびにブータンでの情報を追加して再掲しました。

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