森本喜久男プロフィール

 IKTT(Institute for Khmer Traditional Textiles ;クメール伝統織物研究所)創立者。1948年生まれ。
 1996年にカンボジアの現地NGOとしてIKTTをプノンペン郊外のタクマオ市に設立。以来、内戦下で途絶えかけていたカンボジア伝統の絹織物の復興と、伝統的養蚕の再開に取り組む。2000年、IKTTをシエムリアップに移転。工房を開設し、研修生の受け入れを開始し、伝統的な絹織物の制作と並行して、若い世代への染め織り技術の継承に努める。2002年、シエムリアップ州アンコールトム郡に約5ヘクタールの土地を取得し、「伝統の森」予定地とする(後に23ヘクタールにまで拡張)。2003年、IKTTのプロジェクトとして「伝統の森・再生計画」に着手。荒れ地を拓くところから始め、小屋を建て、井戸を掘り、畑をつくり、野菜・桑・綿花を栽培し、養蚕をし、自然染色の素材となる木々を植え、自給的な染め織りが可能な工芸村を立ち上げた。自然染料による染織を核にしつつも、人びとの暮らしの再生と、人びとの暮らしを包み込む自然環境の再生に取り組むIKTTのプロジェクトサイトを「伝統の森」と呼ぶ。この「伝統の森」は、現在では、敷地のほぼ半分を木々の再生エリアとして保全・育成しつつ、約150人が暮らす「新しい村」として行政的認可を得るまでに成長。
 著書に『メコンにまかせ 東北タイ・カンボジアの村から』、『カンボジア絹絣の世界 アンコールの森によみがえる村』、『カンボジアに村をつくった日本人 世界から注目される自然環境再生プロジェクト』、『自由に生きていいんだよ お金にしばられずに生きる“奇跡の村”へようこそ』、ほかに私家版の『Bayon Moon - Reviving Cambodia's Textile Traditions』(英語版)、『森の知恵 The Wisdom from the forest』(クメール語版)など。また、「伝統の森」で開催されたイベントを記録したDVD『IKTT伝統の森 蚕まつり2008』などがある。
 第11回ロレックス賞(2004年)、社会貢献支援財団より社会貢献者表彰(2010年)、大同生命地域研究特別賞(2012年)、外務大臣表彰(2014年)、ソロプチミスト日本財団より社会貢献賞(2014年)、第11回読売あをによし賞奨励賞(2017年)を受賞。
 日本国内での、「伝統の森」で制作された絹織物などの展示販売会や、関連イベントなどの詳細は、メールマガジン「メコンにまかせ」や、ブログサイトIKTT Japan Newsで随時更新中。

【経歴】
1948年:京都に生まれる。
1971年:京都にて手描き友禅の工房に弟子入り。
1974年:レイデザイン研究所テキスタイルデザイン科卒業。
1975年:独立して手描き友禅工房(森本染芸)を主宰。
1980年:初めてタイを訪れ、クロントイ・スラムに滞在。バンコクの博物館でカンボジアの絣布に出会う。
1983年:タイのラオス難民キャンプの織物学校のボランティアとしてタイへ渡る。タイの手織物と出会う。
1984年:東北タイの農村での手織物プロジェクトの設立に関わり、その後、草木染めの調査、指導を続ける。
1988年:バンコクに草木染シルクの店「バイマイ(「木の葉」の意)」を開店。
1990年:ワシントンの織物博物館(the Textile Museum)のタイでの調査に協力。「タイ東北地方に於ける伝統的草木染めについて」の報告書を提出(その成果は "Textiles and the Tai Experience in Southeast Asia" に掲載)。
1992年:キング・モンクット工科大学のテキスタイルデザイン科の講師となる。
1995年:ユネスコ・カンボジアの手織物プロジェクトのコンサルタントとして現地調査を実施。「カンボジアに於ける絹織物の製造と市場の現況」調査報告書を提出。カンポット州タコー村で、在来種による伝統的養蚕の復興プロジェクトを開始。
1996年:プノンペン郊外、タクマオ市にIKTT(Institute for Khmer Traditional Textiles ;クメール伝統織物研究所)を設立。国際交流基金アジアセンター主催の、アジア各地の織りの担い手たちとのワークショップに参加。
1998年:第一書林より『メコンにまかせ 東北タイ・カンボジアの村から』を上梓。
1999年:「桑の木基金」設立。地雷被害の大きいバッタンバン州などで養蚕プロジェクトを開始。
2000年:IKTTをシエムリアップに移転し、研修生の受け入れを開始する。沖縄県南風原町主催の「アジア絣ロードまつり」に参加。パネリスト・レクチャラーとしてカンボジア伝統織物についての報告を行なう。
2002年:シエムリアップ州アンコールトム郡に約5haの土地を取得。「伝統の森・再生計画」予定地とする。マサチューセッツ州ノースハンプトンで開催されたテキスタイル・ソサエティ・オブ・アメリカの第8回シンポジウム「Silk Roads, Other Roads」に参加し、カンボジアの伝統織物の現状を報告。
2003年:「伝統の森・再生計画」に着手(その後、対象地は約22haにまで拡張)。「伝統の森」で蚕供養を始める。福岡市美術館「カンボジアの染織」展に招かれ、講演「カンボジアにおける伝統織物の復興」を行なう。在シエムリアップの学術系NGO、センター・フォー・クメール・スタディーズと共催で「ホール(絣):クメールとチャム、2つの美の融合」と題する企画展示ならびに学術セミナーを開催。
2004年:「世界中の新規及び進行中の独創的かつ革新的なプロジェクトを実行している個人」に贈られるロレックス賞(第11回)を受賞。
2007年:プノンペンの王宮にて、IKTTの主要スタッフとともにノロドム・シハモニ国王への接見の栄誉を賜る。
2008年:NHKブックスより『カンボジア絹絣の世界 アンコールの森によみがえる村』を上梓。『Bayon Moon - Reviving Cambodia's Textile Traditions』を私家版として上梓。フランスの旅行会社アジア・ボヤージの協力により、パリ・リヨン・トゥールーズにおいて展示会を開催。「伝統の森」にて「蚕まつり2008」を開催(前夜祭としてファッションショーを実施)。
2009年:カナダのバンクーバーで開催されたMaiwa Textile Symposium 2009に招かれ、レクチャーとワークショップを行なう。沖縄・南風原文化センター主催の「アジア・沖縄 織りの手技」展に招かれ、講演を行なう。タイ・テキスタイル・ソサエティの名誉会員となる。
2010年:ノロドム・シハモニ国王の訪日に際し、鳩山首相との午餐会に臨席する栄誉を賜る。公益財団法人社会貢献支援財団より社会貢献者表彰を受ける。
2011年:クメール語の小冊子『森の知恵 The Wisdom from the forest』を上梓。
2012年:クアラルンプールで開催された「ワールド・テキスタイル・シンポジウム2012」で講演を行なう。公益財団法人大同生命国際文化基金による、2012年度の大同生命地域研究特別賞を受賞。無印良品有楽町のATELIER MUJIで開催された「天然染 "未来に向けた羅針盤づくり"」展において講演を行なう。クチンで開催された自然染色に関するシンポジウムと、持続可能な繊維素材に関するフォーラム(ISEND-WEFT:INTERNATIONAL SYMPOSIUM AND EXHIBITION ON NATURAL DYES & WORLD ECO-FIBER AND TEXTILE FORUM)に参加。
2013年:台湾工芸研究発展センター主催によるプログラムで、講演とワークショップを行なう。台湾の北師美術館(MoNTUE)の當代工藝展《初心‧頂真》に参加。Mekong Institute主催のシンポジウム「Mekong Silk Road」でインドシナ原産の蚕について講演。
2014年:筑波大学創造的復興プロジェクト室主催の「創造的復興:視点構築論」において講義を担当。平成26年度外務大臣表彰を受ける。公益財団法人ソロプチミスト日本財団による、平成26年度社会貢献賞を受賞。カンボジア商務省が主催するセミナーで「カンボジアにおけるシルクの歴史」について講演。
2015年:白水社より『カンボジアに村をつくった日本人 世界から注目される自然環境再生プロジェクト』を上梓。NPO法人京田辺シュタイナー学校の開校15周年記念企画「手づくりの未来」に招かれ講演。株式会社フェリシモ主催「神戸学校」に招かれ講演。主婦の友社より内藤順司写真集『いのちの樹 The Tree of Life -IKTT森本喜久男 カンボジア伝統織物の世界』上梓。
2017年:旬報社より『自由に生きていいんだよ お金にしばられずに生きる“奇跡の村”へようこそ』を上梓。第21回女性伝統工芸士展にて特別講演。第11回読売あをによし賞(奨励賞)を受賞。7月3日、治療のため一時帰国中に死去。