6月4日に配信されたメールマガジン「メコンにまかせ」(vol.219)で森本さんは、次のように記しています。
ここ数日、なぜかバナナの絵を描きたいと思っている。少しボリュームのあるバナナの赤い花を中心に重なるバナナの葉を、写実というよりは少しモダンなラフなタッチで描きたいと思っている。紙もできれば全紙サイズの大きめの紙に、などと思いを巡らせている。
でも、あいかわらずのばたばたと過ごしながらの毎日。筆を手にするところまで到達できるかどうかも、まだおぼつかないのだが。
「お絵書き組」の絵の展示会をシエムリアップで開けるかもしれない、という話が持ち上がっている。それに向けて、というわけではないが、お絵描き組の女性たちに、少し気合いを入れて描くようにと、そそのかしている。いつもだったら、それで描き終えておしまいの絵も、完成度を上げるために、もう一度見直してさらに描き込んでみるアイデアを提案。ここ数週間、そんな彼女たちとのセッションのようなことをやり始めたことが、自分でも描きたいと思ったきっかけかもしれない。
美しいものを表現するということは、もちろんそんな簡単なことではない。仮にそのイメージが持てたとしても、それを実現する技量や素材がなければ実現しない。そして、なんといってもそれをやり遂げる心が必要である。
大切なことは、火花が走るような、その美しさを求める心を維持し、切磋琢磨することなのかもしれない。そのことで技術を磨き、正しい素材を求めることができる。世には、数千、数万の、ときには無限の美しいものが存在する。その美しいものと向き合い目眩がしたとしても、なおかつ己自身がそれを超える美を作り出せるのかどうか。そんなことを、ときに自問する。(中略)
人間国宝級の腕を持つ、「伝統の森」に暮らすIKTTの宝、おばあオムペット。彼女も、100年前のカンボジアの古布を超える仕事に、精を出し始めた。わたしが参考に渡したカンボジアの絣の古布のカタログから、そのエキスを自分の仕事のなかに取り込もうとして、その本を手に「この絣柄をやりたいのだが」とやってきた。70歳を超えてなお持続する、その情熱に頭が下がる。
そんな、おばあたちをトップに、IKTTは15歳から75歳まで、約300人ほどの三世代が一緒に生活しながら、布を作っている。10代の若い女性たちは、先輩から、その知恵や経験を学ぶ。子どもを抱えながら働く20代後半から30代の女性たちが主力部隊。そして、年配の女性たち。牛の世話をし、牛糞を桑畑に運ぶ男たち。それぞれが役割を持ち、力をあわせ一枚の布を作っている。
一枚一枚の布に心を込めて織り上げていく。そんな仕事ができること、そしてそんな環境があることが、大切なように思える。それは、量ではなく質の世界、溜息が出るような布を作りたい。そのことを、いま改めてはっきりと自覚し始めた。
そして、お絵描き組の女性たちが、初めての絵の展示会をシエムリアップで開催できることは、彼女たち自身にとって新しいステージを自らの力で切り開くことになる。ときにわたしに厳しく指摘され苦悩しながらも、夢は高く、誇りを持ってものを生み出していくこと。そんなすばらしい体験のときになればと思う。美の極みを目指すことは、そんな容易なことではないから。
【以上、メールマガジン「メコンにまかせ」掲載記事から抜粋、一部加筆修正】
※オムペットの写真は、「IKTTカレンダー2010」にも使用させていただいている内藤順司氏によるものです。
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