プレア・コーと呼ばれる、聖なる牛の神様を「伝統の森」に奉納することにした。もう6年ほど前になるのか、「伝統の森」には牛の神様が鎮座されるべきだという、ささやきのお声があった。しかし、それを心に留めながらも、なかなか実現する機会が訪れなかった。
「伝統の森」の事業に着手してから、今年で10年目を迎える。150人からの人々が暮らす村となり、小さいながらも自然の森を再生させることもできた。念願のラックカイガラムシも、わたしたちが育てた森に戻ってきてくれた。そうした記念にもなる。そしてこれからも末永く、牛の神様に守られながら「伝統の森」の事業が発展していくことを願い、お迎えすることにした。
カンボジアには古くから、牛の神様に対する信仰があったようだ。昔話というか、伝承として人々のなかに伝えられている。それは農業を基本とする人たちの豊かさと自然と牛への感謝の気持ちともいえる。自然とそこにおられる八百万の神々に感謝の心をもつ身として、神様をお迎えすることができ、わたし的には少し緊張の日々をすごしている。
牛の神様は、日本でも多くの神社などで見受けられる。たとえば、京都でいえば北野の天神さん。境内には、たくさんの牛の神様が奉納されている。それを子どもの頃から見てきたせいか、わたしには違和感がない。
カンボジアでは、プノンペンの北、ウドンの古い寺院に牛の神様が安置されている。それ以外のところでは、失われてしまったようだ。唯一、プノンペンのナショナル・ミュージアムに一メートルほどの青銅製のものが残されている。本来なら、アンコールの寺院にも牛の神様があってしかるべきだと思える。タイにあるクメール寺院には、まだ牛の神様が残されているところが何か所かある。
大きさは1メートル20センチほど。石はバンテアイスレイ寺院と同じく、赤い砂岩にした。シェムリアップの石工にお願いし、作業にとりかかってもらっている。じつは不思議な縁があり、60センチほどの古い木製の、黒く漆が塗られたプレア・コーをすでに奉っている。それを参考に、併せてウドンの寺院の黒光りした石のプレア・コーの写真も見てもらいつつ、である。クメールの牛の神様の特徴は、頭が少し上に上がっているところ。石工的には作り辛いようだ。
奉納する場所は「伝統の森」の入り口近く、6メートルほどに育っている菩提樹のすぐそば。その菩提樹の苗木も不思議な縁で、10年ほど前に「伝統の森」に植えることになったもの。そんな、すべてが、不思議な縁で結ばれている。でも、いちばん不思議な縁は、日本人のわたしがカンボジアのシェムリアップ郊外に、アンコールの森を再生しながら村を作り、カンボジアの人たちと暮らしていることかもしれない。
3月16日-17日に、恒例の「蚕まつり」を開催する。それにあわせて、プリア・コー奉納の儀も執り行なう予定である。
森本喜久男
【以上、メールマガジン「メコンにまかせ」掲載記事から再掲】
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