2015-06-15

京田辺シュタイナー学校『親と先生でつくる学校』出版記念イベント「手づくりの未来」報告

 6月6日、京田辺シュタイナー学校開校15年記念、そして『親と先生でつくる学校』出版記念イベント「手づくりの未来」で、森本さんが講演を行ないました。
 プログラム第1部では、「京田辺シュタイナー学校15年間のあゆみ」と題して、開校に至る経緯を同校教員の内海真理子さんが、開校後のNPO法人としての試行錯誤の日々を代表理事である林田智之さんが報告されました。
 第2部が、森本さんの講演です。森本さんは、スライドを交えて「伝統の森」創設を思い立ってからの15年のあゆみを語り始めました。・・・飛行機の窓から、眼下に広がる森を見ていて突然「森をつくる!」と思い立ったときに描いたスケッチ、そこには「次の世代に残すために」とのメモ書きもありました。そして、ピアックスナエンに土地を得てからの変遷として、「伝統の森」の入り口が次第に立派になっていく変化、そして周辺の木々が大きく育っていく様子などを紹介しました。また、子どもたちの写真をいくつも紹介しつつ、森本さんは「ウチでは、子どもを4人生むと、そのお母さんにボーナスを出すんですよ」と笑い、「子どもは未来」そして「たくさんの子どもがいるわたしたちの『伝統の森』は、未来だらけなんですね」と話しました。
 第3部は、大阪府立大学の吉田敦彦さんの司会で、内海さん、林田さん、森本さんによる座談会です。まず、前日に京田辺シュタイナー学校の高等部の生徒たちに話をした森本さんに、生徒たちの印象をたずねます。「みんな、目がキラキラしていますね」と森本さん。一方、生徒たちも森本さんの話にたいへん興奮したようで、内海さんによると教室ではいろいろな話が飛び交い、次の授業が成立しなかったクラスもあったようです。森本さんの「貧しい村をつくる」という話には、「そこに行ってみたい」「手伝いたい」という声が上がったそうです。また、「『伝統の森』には給料をもらいに来ないスタッフがいる」という話には、「お金がなくても暮らしていける村があるんだ」と興味を持ったようです。
 その後、「モノづくりは、こころを込めることが大事」「機械を道具にする」などの話題を経て、「伝統とは」という話になりました。森本さんは、まず「伝統と現代は対立するものではない。伝統の上に現代がある」と切り出しました。そして、「伝統は守るものではなく、つくりだすもの」、「伝統を守るのはミュージアムの仕事」といい、「ものづくりをやっている人間はつねに新しいものをつくらなければ」と発言。
 また、伝統はそれがはぐまれた風土ともにあったと言い、森本さんは「漆器は、器にする木とウルシのあるところで発展した。焼き物はいい土のあるところで生まれた」と例を挙げ、「今の多くの“伝統”はふらついている、地に足が着いていない。なぜなら『これは中国から買った方が安いから』と、その土地が与えてくれるものを大切にせず、目先のことに終始している」「もう一度、素材から見直すことが必要だ」と指摘します。加えて、「シュタイナー学校の15年の営み、新しい学校をつくるという試みの15年は、すでに新しい“伝統”といっていいかと思います、と関係者の人たちにエールを送りました。
 続いて、吉田さんは「人と人とのつながり」、コミュニティとしてどうだろうと、NPO法人としての学校運営に関わっている林田さんに話を振りました。
 林田さんは、学校法人化という選択肢を視野に入れながらも、これまでに培ってきた京田辺シュタイナー学校の特徴を生かしつつ、組織を持続させることについての問いを口にされました。これに対し森本さんは、第1部の報告の際に林田さんが提示したシュタイナー学校の組織図について、「うちの組織図に似ていると思いました」と発言。続けて「普通、組織図というとピラミッド型のものを想像しますよね。でも、ウチ(IKTT)は、小さなおむすび型が――作業グループが15くらいあるのですが――、横に並んでいるんです。管理部門もありますが、それも横に並んだひとつのおむすびで、他の部門の上にあるわけではないんです」と説明します。
 林田さんは、うちの学校を絵にするときに「まず子どもたちが真ん中にいることは間違いないよね」というところから組織図を描き始めたといい、それを横から支えたり、あるいは下から支えたりといったかたちで、多くの人たちがさまざまな立場で関与している。それは自分の子どもさえよければという意識ではなく、その対象は「子どもたち」であり、あるいは「母校」であったりという意味で、いろいろと協力しあっているわけですと現状を分析しつつ、これからの課題は10年後20年後を見据えた組織運営だといいます。
 これに対し森本さんは、「目に見えない部分ですが、わたしたちIKTTには、すでに四世代にわたる信頼関係があるんです。20年前にわたしが出会ったおばあ、彼女たちの多くはもう亡くなっているけれど、その娘や孫の世代が「伝統の森」で働いている。今の子どもたちは、先のおばあからすれば、ひ孫にあたります。そういった世代を超えたつながりがIKTTの強みなんですね」と、ひとつの種明かしをしました。
 最後にひと言ずつとマイクを振られた森本さんは、「土を触ることの大切さ」を指摘しました。そうすることで五感が甦る。頭で考えることと、身体で感じることの違いは大きい。「わからない」というのは、頭で考えているからわからない。体で感じれば、わからないということはない、と。
 短い時間ながら、たいへん内容の濃い有意義なイベントでありました。

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